自衛隊卒のセラピスト

セラピスト&自衛官の経験と共に、笑顔になる話題をお届けします。

【知床遊覧船事故を振り返って】海の安全と水難救助の残酷な現実

令和4年9月21日

助かる確率がとても低い水難事故。滅多に起きることはありませんが、起きると被害は免れません。水難救助の訓練を受けた経験と、海上保安のデータをもとに、その現実をお伝えします。是非ご覧ください。

お疲れ様です。自衛隊卒セラピストの岡田凰里(おかだおうり)です。ブログを読んで頂いてありがとうございます。

 

 

気が付けば9月も下旬に差し掛かり、暑さもだいぶ落ち着いてきました。

 

秋が、近づいているのが感じられます。

 

 

先日の台風では、被害に遭われた方がいらっしゃると思います。

 

心よりお見舞い申し上げます。

 

 

そして台風は必ずまた来ますので、対策をしっかり取っておきましょう。

 

 

さて、今月は防災月間です。

 

 

月の前半では4年前に発災した、

平成30年北海道胆振東部地震

 

をテーマにしました。

 

前回のブログでは、景観が与える心理的な影響についてお伝えしました。

 

震災の爪痕が生々しく残る現場では、心理的な影響を排除するのは難しいことです。

 

そんな中で、気持ちの面でも災害を乗り越えていくためには、当たり前のことにも感謝する、

 

 

「感謝のマインドセット

 

 

がポイントになることをお伝えしました。

 

 

 

 

今回の北海道取材は、1週間もの行程になりました。

 

実は、胆振東部地震の取材だけであれば、こんなに時間は必要ありませんでした。

 

これだけ時間がかかったのは、知床遊覧船のKAZUⅠ号の事故のその後を取材したからです。

 

 

北海道を大横断しましたからね…(^^;

 

 

そして普段乗り慣れていない船についてお伝えするために、各地の船を3種類乗ったのも影響しています。

 

茨城県大洗港から北海道苫小牧港までの商船三井フェリー

さんふらわあ号」

 

知床観光船

「おーろら号」

 

北海道函館港から青森県青森港までの

津軽海峡フェリー

 

の3種類です。

 

今回のブログでは、知床でのKAZUⅠ号の事故の取材と、3種類の船に乗って感じたことをお伝えしたいと思います。

 

今週のブログは以下の内容です。

1 知床の観光船に乗ってみて

2 水難救助の基礎を学んで

3 海上保安レポートを読んで

4 安全ってアタリマエ?

5 まとめと次回のテーマ

それでは始めていきますね。

 

 

1 知床の観光船に乗ってみて

今回、取材ではありますが、初めて知床を訪れました。

 

まずは乗船にあたって、KAZUⅠ号の事故の犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするため、献花台を訪ねました。

 

 

斜里町総合庁舎の入り口すぐのところに、献花台がありました。

 

献花台の写真を撮るのは、気が引けましたので、写真がないことをお許しください。

 

 

改めて犠牲になられた方々のご冥福を、お祈り申し上げます。

 

 

その後斜里バスターミナルから、ウトロバスターミナルへ向かい、その後、運よくフェリーに乗ることができました。

 

 

運よく?

 

 

と、感じる方もいらっしゃいますよね。

 

実は、私が乗った1つ前の便は、欠航していたんです。

 

この日は、3便中2便のみの運航となっていました。

 

お話を伺ってみたところ、霧が濃くて運航できなかったとのこと。

 

確かにウトロバスターミナルへの移動間、オホーツク海を見たんですが、とても霧が濃かったです。

 

 

 

移動間バスガイドさんが話していたのは、

「波は静かなので、霧さえ晴れれば大丈夫です」

「天気は変わりやすいので、今までの経験上は大丈夫な気がします」

 

まさにおっしゃる通りになりました。

 

14時半の便に乗ったんですが、当初はこんな感じでした。

 

それが、こんな感じに!

 

信じられないかもしれませんが、1時間もかからないうちに、こんなにも天気が変化しました。

 

まさに絶景で、知床観光では外せないもの!と感じました。

 

 

こんな素敵な景色が楽しめる観光船の内の1つで、あのような痛ましい事故が起こってしまったのは、本当に残念なことです。

 

当日の乗員乗客合わせて26名全員が死亡・行方不明。

 

この残酷な現実は、水難救助の難しさを如実に物語っています。

 

 

2 水難救助の基礎を学んで

わたしは元陸上自衛官です。

 

陸自は陸のことしかやらない、と思われるかもしれません。

 

もちろん、陸メインのなのですが、水に関する訓練もあるにはあります。

 

 

水路潜入の訓練ですね。

 

 

わたしはレンジャーを修了していますので、その際に行いました。

 

 

ゴムボートを漕いだり、渡河ボートで移動したり。

 

そして着装泳や、水の遭難の対処要領などを学びました。

 

 

これとは別に、自衛隊体育学校の体育専修課程に入校した際には、救助法を学びました。

 

わたしは小さい頃に水泳を習っていたので、普通に泳げます。

 

それでも水に対しては、潜在的な恐怖感があるんですよね。

 

そして水難救助を学べば学ぶほど、その恐怖感は増していきました。

 

ただこの恐怖感のお陰で、安全の意識が保たれている気もします。

 

 

水難事故の現実は厳しく、生身で海に投げ出された際には、助からないことが多くあります。

 

 

そしてこれは、救命胴衣を着けていても同じです。

 

低体温症になってしまうからです。

 

 

本当に厳しい現実です。

 

 

だからこそ、何重にも安全対策を行って、船を運航しています。

 


船本体の対策

 

救命胴衣、浮き輪、救命ボート

 

気象や潮の流れの確認

 

等々…。

 

 

さらには安全が確保できない時には、運航をしないというのが安全対策の最たるものです。

 

このように安全を確保しているわけですが、それでも事故は現実に起こります。

 

事故が起きた時には、救助法が役に立つわけですが…。

 

 

 

救助の際して、

ミイラ取りがミイラにならないように

 

と、徹底して言われました。

 

 

 

溺れている人を助けるときにも、基本は陸や船から、浮き輪やロープを投げるのが第一。

 

 

水に入って救助するにしても、道具を使う。

 

 

そして、道具なしで直接救助するのは最終手段です。

 

 

なぜなら溺れている人の引っ張る力はとても強いので、救助者も巻き込まれて一緒に溺れてしまうからです。

 

もちろんいざという時は直接救助するわけですが、幸いなことにまだそのような現場には立ち会ったことはありません。

 

直接救助は、命懸けだと覚悟をしています。

 

いまでもプールに泳ぎに行った際には、まず初めに救助泳法を練習してから、泳ぐようにしています。

 

訓練を通して、水難事故の救助の現実を学びました。

 

 

海や湖、そして川でのレジャーは、本当に楽しいですよね。

 

 

ただ、危険と隣り合わせのレジャーであることも、忘れないでいただければと思います。

 

それでは実際に水難事故は、どの程度起きているのでしょうか。

 

 

3 海上保安レポートを読んで

事故の状況を調べるにあたって、海上保安レポートを拝見しました。

 

まずは船舶事故の状況です。

 

 

船舶の事故は毎年2000件近く起こっており、それに対して年の違いはありますが、100名弱ほどの死者・行方不明者がでています。

 

次に海難人身事故の現況です。

 

船の事故よりも、件数自体は少ないのですが、死者・行方不明者数は数倍となっています。

 

このデータを見ると、人の身が海で危険な目に会った場合には、3割以上の確率で、死亡もしくは行方不明になるという、非常に残酷な現実を示しています。

 

このような中で、KAZUⅠ号の事故があれだけセンセーショナルに報道されたのは、乗員乗客の全員が犠牲になったからでしょう。

 

 

そして、釣り中の海中転落者に関する、ショッキングなデータもありました。

 

 

ライフジャケット装着の有無と、生存率のデータです。

 

まずはライフジャケット着用時の生存率です。

 

 

釣り中にライフジャケットを装着している方は、全体の26%だそうです。

 

そして、ライフジャケットを着用していたにも関わらず、死亡・行方不明になっている方が、44%もいます。

 

海中に転落するということは、非常に危険であることを示しています。

 

次にライフジャケット非着用時の生存率です。

 

 

非着用時の方が、生存率が低いのがわかります。

 

 

ところで、冷静にデータを見てみると…

 

 

着用時は56%生存。

 

 

非着用時は43%生存。

 

 

このデータは本当に残酷な現実を物語っています。

 

ライフジャケットの有無を関係なく算出した生存率は…。

 

 

46.6%

 

 

つまり釣り中に海中転落した場合は、死亡・行方不明になる確率の方が高いんです。

 

 

そして警察白書にも、水難事故の統計がありました。

 



警察が対応した水難者数は、山岳遭難者数の5分の3程度です。

 

ところが、死者・行方不明者は水難事故の方が、圧倒的に多い結果となっています。

 

水難の死者・行方不明者は山岳遭難の2.5倍以上です。

 

そして警察の対応した水難者の約半分が、死亡もしくは行方不明になっています。

 

 

楽しい海や湖、川のレジャーですが、この現実を見ると「安全第一」は絶対の条件だと言えます。

 

 

それでは船舶の乗務員の方は、どのようにしてこの安全を確保してくれているのでしょうか。

 

 

4 安全ってアタリマエ?

今回、3つの船に乗ってみて感じたのは、

「事故の影響で、特段安全対策を設けている様子はない」

 

ということです。

 

もしかしたら、乗客にわからない部分で対策を施していたのかもしれません。

 

そして、事故を起こした船と、今回乗った船は大きさが違います。

 

安全対策も、別のものになるのかもしれません。

 

ただ、乗務員の皆さんが乗客に対して、特段の対応をしているようには感じませんでした。

 

これは乗務員の方にとって、船の航行をするには、

安全第一は当たり前である

 

ということを示しているんだと思います。

 

先述した通り、水難事故の現実は残酷です。

 

船が沈没したり、身が海に投げ出されてしまっては、命の危険にさらされる確率が、非常に高くなります。

 

だからこそ、安全第一が当たり前で、自然のこととして身についてらっしゃるんだと思います。

 

そして、乗客に不安を与えないような形で、さりげなく自然にやってらっしゃるんだと思います。

 

 

わたしは専門家ではないので、今回の知床遊覧船の事故について詳しく語ることは避けたいと思います。

 

 

ただ事故当日、KAZUⅠ号の乗組員の方は、他社の方から

気象条件が悪いので、出航しない方がいい

 

と、助言を受けていたようです。


また、わたしは取材に際して、ウトロの元漁師の方から、

あそこは潮の流れが複雑なんです。実は私も死にかけたことがあります

 

そんな話を伺うことができました。

 

 

そして、

行政がしっかり指導しないからだ!

 

なんて報道も見ましたが、事故以前に、行政指導が入っているんですよね。

 

ただ、このような事故を行政指導だけで未然に防ぐのは、限界があるんです。

 

わたし自身が元公務員なので、その指導に限界があるのはよくわかります。

 

 

事故を未然に防ぐには、当事者の安全に対する意識が不可欠です。

 

 

安全管理の分野においては、ハインリッヒの法則や、バードの法則があります。

 

重大事故が起こる前には、無数の小さなインシデントがあるという法則です。

 

小さなインシデントがあった際に、それに対して安全対策を徹底しておくのが、重大事故の予防につながります。

 

 

今回の事故について調べてみると、無数のインシデントが実際にあったようです。

 

 

まさにハインリッヒの法則が示す通りに、なってしまいました。

 

 

このような中で、わたしたち一般の乗客が、船の安全に対して何ができるのか…。

 

 

まずはライフジャケットの位置を知っておく、そして装着の仕方を知っておくということが第一だと思います。

 

今回乗った3つの船でも、安全に関するビデオが流れていて、いつでも見られるようになっていました。

 

 

そして先日乗った、東京湾の屋形船「船清」さんでも、初めにライフジャケットについての説明がありました。

 

このように、乗船する各個人が、緊急時の対処を知っておくこと。

 

 

 

 

 

そしてもう1つ

 

 

 

 

 

それは安全に対して感謝することだと思います。

 

 

 

 

当たり前に確保してもらっている、安全に対して感謝する

 

 

 

 

具体的にどういうことかというと…。

 

 

 

例えば、知床に旅行に行ったとします。

 

観光船に乗るつもりだったのが、欠航になってしまいました。

 

わざわざ知床まで行って、乗りたかった船が欠航になってしまったら、ショックですよね。

 

もしかしたら、

 

 

「せっかく来たのに、本当に残念」

 

「なんで出航してくれないの?」

 

「旅費返してほしい」

 

 

そんな気持ちが沸いてくるかもしれません。

 

 

そのお気持ちはよくわかります。

 

 

今回の取材で、わたしは運よく乗れましたが、乗れなかったらそんな気持ちが沸いていたかもしれません。

 

ただ、その気持ちを言葉や態度に出して、係員の方にぶつけてしまうと…

 

 

係員の方は、傷つきますよね。

 

 

出航したいのは、係員の方も同じだと思います。

 

お仕事として、商売としてやっているわけですから。

 

そんな言葉をぶつけられると、多少無理をしてでも出航しようとする気持ちが、どうしても沸いてきてしまうと思うんです。

 

 

なんとか気持ちに応えたい、と思うのが人情ですから。

 

 

ただこうなってしまうと、お互い苦しくなる上に、観光が残念な思い出になってしまうと思うんです。

 

 

ですので、乗りに行って、欠航になってしまったときには

 

 

安全に配慮して頂いて、ありがとうございます

 

自然相手だと、やっぱり大変ですよね

 

また来れるのを、楽しみにしてます

 

 

こんな風に、係員の方に声をかけてみてはいかがでしょうか。

 

お互いに心地よい気持ちになれて、安心安全な船の航行を、手助けできると思ます。

 

そして観光の思い出も、感謝と笑顔で振り返ることができますよ。

 

 

5 まとめと次回のテーマ

今回のブログでは、海の安全と水難救助の現実についてお伝えしました。

 

水難事故の現実は厳しく、助かる見込みが少ないこと。

 

そしてその厳しい現実に対処するために、何重もの安全対策がなされていることをお伝えしました。

 

 

参考資料以外にも、この事故について色々と調べたんですが、相当特殊なケースだと感じました。

 

 

 

この事故の後、4つの船に乗りました。

 

東京湾の屋形船、そして取材の際に乗った3種類の船。

 

実際に船に乗ってみて、運航業者の方は、安全を常に意識し、安全に配慮して、それが自然のこととして身についてらっしゃると感じました。

 

 

ですので、安心して船の観光を楽しめました。

 

 

船からの景色は絶景です!

 


こんな景色や…

 

こんな景色…

 

そして、こんな景色は船からでしか眺められません!

 

 

まだ乗ったことのない方は、是非是非乗りに行ってくださいね♪

 

 

"知床観光船"は「おーろら号」を運行する道東観光開発株式会社の登録商標です(登録番号4116061及び4116070)

 

今回のKAZUⅠ号の事故に際して、”知床観光船”と表記している記事等がありますが、今回の事故とは一切無関係です。

 

 

次回のブログでは、最近のニュースでよく拝見する熊の被害、『熊害(ゆうがい)』についてお伝えします。

 

是非ご覧ください。

 

 

知床観光船『おーろら号』の感想

知床観光船
 

https://www.ms-aurora.com/shiretoko/

 

商船三井フェリー
 

https://www.sunflower.co.jp/

 

津軽海峡フェリー
 

https://www.tsugarukaikyo.co.jp/

 

知床の観光船
 

https://www.shiretoko.asia/list_cruise.html

知床斜里観光協会HPにリンクします)

 

東京湾の屋形船のブログ


参考資料

1 国土交通省HP 「知床遊覧船事故の概要

2 ウィキペディアHP「知床遊覧船沈没事故

3 海上保安レポート2022 令和4年5月 海上保安庁

4 令和3年度版 警察白書 令和3年7月 国家公安委員会 警察庁

5 朝日新聞デジタル 
 

「今日は出航やめた方がいい」船長に忠告したが… 知床の観光船不明:朝日新聞デジタル

 

今週の体重

先週58.8㎏⇒今週59.3㎏

 

体重をアップする理由
【頑張らないダイエット③】 お手軽にも程がある!"超時短"筋トレ法

 

※令和6年3月25日:ブログの冒頭に「概要」を追加し、内容を校正しました。

 

 

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陸上自衛隊に15年勤務。レンジャー隊員。公認心理師産業カウンセラー

 

在職時は、年200件以上の面談に対応するカウンセラーの任務を行うと共に、隊員に対して災害派遣の心構え」を教育をしていました。

 

そんな自衛隊での教育や、自身の災害派遣の経験をアレンジして、現在は一般向けに「災害の心構え」をお伝えするセミナー講師。

 

 

『どんな災害も乗り越える』

 

その心構えを”自衛隊式”でレクチャーしています。

 

 

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公認心理師(国家資格)、産業カウンセラー、リラクゼーションセラピスト(2級)、元陸上自衛官、レンジャー隊員、上級体育指導官、予備自衛官(衛生官)

〔※「Windship」及び「Windship treatment」は登録商標です。〕

 

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