お疲れ様です。自衛隊卒セラピストの岡田凰里(おかだおうり)です。ブログを読んで頂いてありがとうございます。
気づけば今年もあと2週間程です。
太陽の沈む時間が、日に日に早くなっているのが感じられます。
そろそろカボチャと柚子を、準備しないといけませんね。
新型コロナウイルス感染症は、まだまだクラスターが発生しているところもあるようです。
手洗い、うがい、マスクを徹底して、感染対策は継続していきましょう。
今月は京王線刺傷事件をテーマにしています。
前回、前々回のブログはお伝えするにあたって、このような事件が起きた時に、「自分に何ができるか」を考えた方だけ限定でお届けしていました。
お届けした内容は、闘争スイッチが入った方のための、この事件の予防方法と具体的な対処方法です。
今回のブログではそのような制限をせず、この事件に興味のある方にご覧いただければと思います。
今回お届けするのは、加害者が事件後に払う代償についてです。
加害者は「犯罪者」として扱われ、そして裁かれることになります。
犯人はこれをある程度は覚悟しているでしょう。
「事件を起こして死刑になりたかった」と供述していることから、社会的な制裁を受けることは理解しています。
しかし犯行の結果を考えると、本人の望んでいた刑に処されることはなさそうです。
一生涯を犯罪者として、生きていくことになります。
これは犯罪を犯したことによる、「社会的な代償」になります。
ところが、心理的な代償も払わなければならないことを、本人は理解しているのでしょうか?
このような行為を行った後、自分がどのような心理状態になり、どれほど苦しむかを理解して行動しているとは、到底思えません。
そこで今回は心理的な観点から、加害者が払う代償をお伝えしようと思います。
初めにお断りしておきますが、このブログは犯罪者を擁護するものではありません。
あらかじめご了承ください。
今回のブログは以下の内容になっています。
それでは始めていきます。
1 命のやり取りの心理的作用
京王線刺傷事件の犯人は「自分では自殺できなかったので、2人以上殺して死刑になりたかった」と供述しています。
そして、刃渡り約30㎝のナイフで乗客の男性を刺したそうです。
つまり、命のやり取りの舞台に、自ら立ってしまったことになります。
人をあやめようとしていること、そしてそれをナイフという凶器で「刺して」行っていること。
この二つの事実が加害者の精神に、一生ぬぐうことができないトラウマ(心的外傷)を刻むことになります。
当たり前のことと感じるかもしれませが、人間は、同類である人間を傷つけることに、抵抗を感じます。
極端な例で大変恐縮ですが、実は命のやり取りをする戦場においても、同様なことなんです。
ごく普通の人間は何を犠牲にしても、人をあやめることを避けようとします。
それほど人に危害を加えるということに、抵抗を感じるものなのです。
これは人間を始め、動物であれば同類に危害を加えることに強烈な抵抗を伴うという、「本能的な反応」と言えます。
これは理屈ではなく、本能的な反応なので、抗うことはできません。
昔のテレビ番組で、「なぜ人を殺してはいけないか」というテーマで議論をしているのを拝見したことがあります。
殺してはいけないのではなく、殺したくないという本能的な反応があるので殺せない、というのが正確なところでしょう。
そしてこの本能的な感覚に反して人をあやめてしまうと、トラウマとなり、精神に異常をきたすことになります。
これがPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれるものです。
人間が同類の人間と命のやり取りを行った場合、98%の人間がPTSDとなり、罪悪感に苦しみます。
あれ?と感じた方もいるかもしれません。
その通りなんです。
そう、実は残りの2%の人間は、同類の人に危害を加えても、トラウマを負うことがないんです。
注意していただきたいのは、これは善悪の話をしているわけではないということです。
2%の人間が、悪人というわけではありません。
そういうことをしても、精神的な苦痛を伴わないという、性質を持っているということです。
その2%に入っている人間が、凶悪犯罪を犯すわけではありません。
トラウマを負うか、負わないかというパーセンテージを示したものにすぎません。
つまり凶悪犯罪を犯す人間でも、罪悪感を感じてトラウマを負う人間がほとんどなんです。
京王線の事件の犯人は「自分では自殺できなかったので・・・」と供述しています。
自分の命を奪うことに、抵抗を感じていると推察できます。
こうなると、恐らくは相手の命を奪うことにも、本能的な抵抗を感じる人間だろうと思われます。
よって、あくまで推測の範疇を出ませんが、彼自身も98%側の人間だと予想できます。
それではこのような心理的な抵抗感を、どのように抑制して犯行に及んだのでしょうか。
2 心理的抵抗を抑制するもの
命のやり取りまではいかなくても、人間は相手に危害を加えることに対して、本能的な抵抗を感じるものです。
しかし、危害を加える前提で行われるものもあります。
例えばボクシングや格闘技などのスポーツです。
ルールを設けることで、命の安全を確保して、お互いが同意のもと、競技が行われます。
お互いの同意があるということと、グローブなどの安全処置をすることで、心理的な抵抗を抑制して、相手にダメージを与えることを可能にしています。
また武道においては、礼儀・節度を徹底することで、心理的な抵抗を抑制し、武力を用いて相手を制する鍛錬を可能にしています。
寸止めや、型、中には実際に相手に接触して、その使い方を学びます。
武道を修めた方のあの人間性は、礼節を学ぶと共に、武力の危険性を十分理解している現れと言えるでしょう。
そして、警察や警備関係の方は、その職業的使命感が心理的抵抗を抑制します。
「自分たちの力は、社会の秩序を守るためのものである」という確固たる信念で、犯罪者の対応に当たります。
警察官は柔道や剣道などの武道が、必修になっているのも納得できます。
人間はこういったもので、心理的な抵抗を抑制し、相手に危害を加えることを可能にします。
そして実は、もう一つ心理的な抵抗を抑制するものがあります。
それは感情です。
怒り、妬み、憎しみといった感情を使うと、心理的な抵抗を抑制することができます。
しかしその感情は、いつまでも続くものではありません。
つまり感情を使って、心理的抵抗を抑制できるのは一時的なものになります。
そして感情を使って抑制してしまった場合には、ぬぐうことのできない罪悪感を負うことになります。
3 一生消えない地獄の罪悪感
感情を使って心理的抵抗を抑制した場合には、当初は目的を果たしたという高揚感があります。
感情が高ぶっているので、「やったぞ!自分はやったんだ!!」とハイな状態になるわけです。
しかし、いざその感情が落ち着いてくると、自分の行いを示す否定しようのない証拠を突き付けられます。
するとどうでしょう。
この事実が、吐き気を引き起こすことも珍しくないほどの、強烈な罪悪感をもたらすことになります。
また、人間は「刺す」という行為に対して、本能的な抵抗感があります。
誰もが経験したことがあると思いますが、人差し指で自分を刺されるだけでも、嫌な気分になります。
相手に危害を加えようとしているわけでもなく、ただ、指で刺されただけでも、あれだけ不快な気持ちになるわけです。
それがわかるので、必要のない場合には人を指で刺したりしません。
ここでまた、戦場の例をご紹介します。
武器による戦闘において「刺す」という攻撃が、一番効率よく致命傷を与えることができます。
しかしいくら武器で「刺す」ように訓練しても、その抵抗感から「叩く」や「切る」という攻撃になってしまうことが多いそうです。
自分の命がかかってるような戦闘場面でも、これだけの心理的な抵抗感があるのが「刺す」という行為なんです。
京王線事件の加害者は、人をあやめるという行為を試み、さらにはそれを「刺す」という、本能的に強烈な抵抗感がある方法で行っています。
どうやっても否定できない、人の命を奪おうとした行為の責任を、たった一人で負って、一生を過ごしていかなければなりません。
この「一人で負わなければいけない」ということが、地獄の罪悪感を生む、大きな要因になります。
たびたび戦場の例で、大変恐縮です。
実は兵士というのは、この命の責任を負うことで、耐え難い罪悪感にさいなまれます。
戦場ではもちろん、そこから帰還した後も苦しみます。
これは相手に対してそうなることもありますが、特に味方の命の責任を負ってしまうことで非常に苦しみます。
そしてその責任を一人で背負ってしまったときに、その責任を背負いきれずに、自ら命を絶ってしまう場合が多くあります。
人間の命の責任は、一人だけの力では、絶対に背負うことはできないんです。
加害者は、ぬぐうことができない上に、耐え難い罪悪感をたった一人で背負い、一生涯に渡って地獄の苦しみを味わうことになります。
これが感情を使って、心理的な抵抗を抑制した代償になります。
4 哀しい物語の幕を閉じる
どこで歯車が狂ったんでしょうか。
この事件の加害者は、いったいどこで歯車が狂ったんでしょうか。
彼のことを知らない人間には、計り知れません。
本来であれば幸せになるために、この世に生まれてきたはずです。
それなのに若くして人を傷つけ、自分自身も地獄の罪悪感を負うことになりました。
この行為は事件の被害者を生み、そして世の人々に、不安、恐れ、そして怒りなどの感情をもたらすことになりました。
こんなことをするために、生まれてきたのでしょうか。
本当に哀しい出来事です。
そして事件に遭遇してしまった皆様の心中、心よりお察し申し上げます。
本当に恐ろしい出来事だったと思います。
被害者の方々においては、日常を取り戻すのが、難しいかと思います。
ただ、一つだけお伝えさせていただきたいのは、「こんなことはほとんど起きない」ということです。
もちろんこのような事件の直後には、模倣犯が起こりますので、警戒しなければなりません。
そのために警察の方々や関係各所の方々が、日々訓練・警戒に当たってくださっています。
それでも時間が経てば、その風潮も収まり、何事もなかったような日常がやってきます。
かかる時間は人それぞれかもしれませんが、気持ちも次第に落ち着いてきます。
そして、もしもどこかで人生の歯車が狂っていたら、自分が彼だったかもしれません。
本当に哀しい出来事でした。
この出来事は過去の遺物として、劇場の物語にしてしまいましょう。
そして沸き起こった否定的な感情(不安・恐れ・怒り)は、その劇場に置いていきましょう。
そしてその劇場の幕を閉じ、否定的な感情とは、しっかり距離を取りましょう。
否定的な感情を伴っていては、心地よい生活を送ることはできません。
決して心配し過ぎずに、何気ない日常に感謝して、日々の生活を健やかに心地よく送っていきましょう。
5 まとめ
12月は3回に分けて、京王線刺傷事件について、心理社会的な観点を踏まえてお伝えしました。
メディアでは「逃げなければいけない」という意見を拝見しますが、それは手段のうちの1つです。
闘争スイッチが入った場合には、暴漢に対峙するという手段もあります。
そしてその手段を知っているというメッセージを発信することが、このような事件を予防する方法の1つです。
日本の大人は、懸命に努力して、安心安全な社会を築いてきました。
そして警察の方を始め、自分の気づかないところで社会の安全を守ってくれている皆様がいます。
普段はそれを意識することなく生活していますが、改めて感謝申し上げます。
ありがとうございます。
そして今月のブログが、事件予防の一助になれば幸いです。
このような事件が今後起こることがないよう、心から願っております。
陸上自衛隊に15年勤務。レンジャー隊員。
在職時は、年200件以上を対応するカウンセラーの任務の傍ら、気内臓療法(チネイザン)のインストラクターを務め、様々なボディケアを約10年間学んできました。
現在は自衛隊を卒業して、身体も心も癒すセラピスト。
『何をしてもよく眠れない』
こんな悩みをお持ちの方に、心地よい眠りをサポートする施術
「Windship treatment®」を提供しています。
このブログでは、身体の健康、心の健康、防災、そしてちょっとだけ自衛隊の話を綴っています。
セラピストとして学んだことや自衛隊での経験が、皆様のお役に立てば幸いです。
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引き続き感染対策をして、安心安全の社会を作っていきましょう。
【参考文献】
1 戦争における「***」の心理学 デーヴ・グロスマン著 安原和見訳 ちくま学芸文庫 2004年
2 「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム デーヴ・グロスマン/ローレン・クリステンセン共著 安原和見訳 二見書房 2008年
3 帰還兵はなぜ自殺するのか デイヴィッド・フィンケル著 古谷美登里訳 亜紀書房 2015年
4 加害者臨床を学ぶ 門本泉著 金剛出版 2019年
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リラクゼーションセラピスト、公認心理師(国家資格)、産業カウンセラー、元陸上自衛官、レンジャー隊員、上級体育指導官、予備自衛官(心理)