お疲れ様です。自衛隊卒セラピストの岡田凰里(おかだおうり)です。ブログを読んで頂いてありがとうございます。
12月も中旬。
今年も残すところあと2週間です。
本当にあっという間ですね。
年内にやっておかなければならないことは、さっさと済ませておかないと、あっという間に年が明けてしまいそうです(^^;
新型コロナウイルスについては、新規感染者数が微増状態です。
感染対策の基本基礎、マスク、うがい、手洗いを継続して、楽しい年末を迎えましょう。
さて、今月は『コロナ禍を心理学で振り返る』をテーマにブログをお届けしています。
前回のブログでは、コロナうつをダブルバインド理論から読み解きました。
逃れられない矛盾したメッセージ、つまりダブルバインドメッセージが繰り返し発信されると、うつ症状が出やすい状況になるんでしたね。
まもなく3年を迎えるコロナ禍。
ダブルバインドメッセージが3年の間、繰り返し発信され続けてきました。
ワクチン、マスク、3密回避…
これらに関する情報が溢れに溢れ、その情報が否応なくダブルバインドメッセージになってしまいました。
これはやむを得ないことです。
ただ、このダブルバインドメッセージに揺さぶられないためには、感染予防の基本のキを淡々と続けることが有効であることをお伝えしました。
うがい、手洗い、マスクですね。
恐らくこの波が、最後の大きな波になるでしょう。
淡々と、基本のキを続けていきましょう。
さてコロナ禍が始まって、しばらくしてから感染対策以外の問題も、盛んに報道されていたことがあります。
それは、医療従事者の皆様に対する差別です。
医療従事者本人に対する差別に加えて、さらにはそのご家族まで差別される、こんなことが実際に起きていたようです。
実は同じようなことが、東日本大震災のときにも起きていました。
それは、福島で被災した方が、他県に避難した際のことです。
「放射能がうつる」
(※放射性物質や放射線等を総じて放射能と表現します)
こんな風に被災された方が、差別されるということが起きました。
とても悲しい現実ですが、なぜこのような差別が繰り返されるのか、一度しっかりと考察したいと思います。
今回は、人間の集団心理である傍観者効果をご紹介します。
そして社会心理学の観点から、医療従事者差別を読み解いていきます。
今回のブログは以下の内容になっています。
それでは始めていきますね。
1 続く医療従事者の負担
それと共に、医療従事者への負担は増加します。
防護服に身を固めての看護は、非常に大変な重労働。
一瞬の油断が、院内感染を引き起こします。
感染予防を徹底していても、怪我や他の病気で受診した無症状感染者から、院内感染が発生してしまうこともあります。
医療従事者は自身の感染、そして身内に感染させてしまうことへの危険と不安に葛藤しながら、この3年間お仕事をされています。
世のため、人のため、感染症の治療とまん延防止に務めて頂いて、心から感謝いたします。
ありがとうございます。
流行当初は、マスクや防護具、消毒液といった基本的な資材不足が生じました。
そして感染患者を受け入れた医療機関の中には、人員とスペースを確保するために、病棟の閉鎖や外来の休診、不急の手術の延期等を行いました。
こうした結果、収益は極端に悪化し、給与の減額、ボーナスカットを行わざるを得ない医療機関もありました。
この状況でも、対応する多くの医療従事者は、患者の生命と健康を守るため、専門職として使命感を持って献身的に職務を遂行してくださいました。
ただこのような中で、一部の人から、心無い誹謗中傷や差別を受けることがありました。
最悪の状況の中での差別や偏見は、医療従事者の方の士気を落とし、身心共に極端な疲労感に襲われることになります。
こうなると医療の質は、低下せざるを得ません。
この状況を予知してか、実は2020年3月26日の段階で、日本赤十字社は感染症に関連した差別・偏見に対する啓発資料を作成・発表しています。
それにもかかわらず、医療従事者に対する差別は、全国のいたるところで報道されていました。
そこでこのような差別や心無い誹謗中傷が起こってしまった原因を、考察していこうと思います。
2 傍観者効果とは
傍観者効果とは、社会心理学の用語であり、集団心理のひとつです。
心理学者のラタネによる理論で、多くの他者の存在により、援助介入が抑制されることを示したものです。
ちょっと専門的な表現なので、具体的な例で説明しますね。
例えば大都市の駅の構内で、困っている人がいたとします。
恐らく多くの人は、素通りしてしまうでしょう。
これは、人間の集団心理として、
「周りが誰も助けていないので、この事態は助けを必要としないと思い込んでしまう」
という作用が働き、誰も助けなかったわけです。
大都市の駅では多くの他者の存在しており、援助介入が抑制されている、つまり助けないという状態になってしまったわけです。
これは傍観者効果の中の、集合的無知(多元的無知)という状態です。
その他にも、
・多くの人がいることで、個人の責任感が低下することである「責任の拡散」
・ 行動を起こした時、その結果に対して周囲からのネガティブな評価を恐れる「評価懸念」
が働き、援助介入を抑制する要因になってしまうという理論が、傍観者効果です。
大都市で困っていた時に、誰にも助けてもらえず、
「都会の人は冷たい」
なんて話題が出たりすることもありますが、実はこれは傍観者効果で読み解くと、多くの他者の存在により、援助介入が抑制されてしまった結果ということになります。
これは人間の社会心理的特性になりますので、誰にでも起こる作用です。
ですので、これにあながって行動するのは、非常に難しいことです。
実は医療従事者差別も、人間があながうことが困難な、社会心理的な作用が働いているんです。
3 差別?それとも心理的作用?
今回のブログは「医療従事者差別と傍観者効果」としていますが、実は差別と傍観者効果が直接関係しているわけではありません。
人間があながうことが困難な"社会心理的作用"があることをお伝えするために、傍観者効果をご紹介しました。
それでは医療従事者差別が起こってしまった原因は、どのような作用が働いているのか。
それは
『”感染症に対する恐怖"と"感染への不安"が社会的に増幅される』
という社会心理的作用です。
恐怖や不安は危険を回避するために、人間であれば誰もが持つ感情です。
ただこの感染症は、未知な上に命に係わる危険も感じる恐怖でした。
さらにメディアでは、感染症に関する様々な情報が溢れていました。
これらの状況が、社会心理的に恐怖と不安を増幅させてしまいました。
メディアの皆様も情報を世に伝える使命がありますので、これはやむを得ないことでした。
そして非常に心苦しい現実ですが、この社会心理的作用により、人間は思いもよらない行動をしてしまう場合があるんです。
社会的に増幅された恐怖と不安に流されてしまい、差別や偏見を態度や言葉に出してしまう…
こういうことが、必ず起こってしまうんです。
ですので、新型コロナウイルス感染症の流行という非常事態に際して、差別や偏見の発生を未然に防ぐことは至難の業です。
東日本大震災の際にも、福島から避難されてきた方に対し
「放射能がうつる」
こんな風に、差別的な態度や言葉を発する方がいました。
未知のものに対する恐怖や不安を前にし、その感情が社会的に増幅されてしまうと、それをあからさまに態度や言葉にしてしまう方が、必ずいらっしゃいます。
反射的にそうしてしまうこともあれば、恐怖や不安が増幅されて偏見を持ってしまい、それが言動に出てしまう場合もあります。
その時におかれている状況、立場、経験によって反応は人それぞれです。
ただ、差別的な言動をしていない方が、恐怖や不安を感じていないかと言われれば、そんなことはありません。
差別的な言動をしなかった方も、恐怖や不安は必ず感じています。
そして今回は差別的な言動をしなかった方でも、場合によってはそのようなことをしてしまうこともあり得ます。
「わたしはいかなる時でも、差別的な言動をしない」
こう言い切ることはできません。
仮に言い切ったとしたら、それは嘘です。
命の危険を感じた際の恐怖や不安は、そんなに単純にコントロールできるものではありません。
日本看護協会が、看護師個人に対して行った調査では、差別・偏見の有無について、次の様な結果が出ています。
回答された方の内、2割の方が差別・偏見があったと回答しています。
そして、その内容ですが
「家族や親族が、周囲の人から心無い言葉を言われた」
27.6%
「自身が患者から、心無い言葉を言われた」
19.8%
「自身が地域住民から、心無い言葉を言われた」
19.2%
「自身が勤務先の同僚から、心無い言葉を言われた」
16.5%
「家族や親族が勤務先等から、出勤を止められた」
7.9%
「子供が通っている施設(保育園、学校等)から、自身の入室を断られた」
4.4%
「自身が地域の店舗・施設から、入店・入室を断られた」
4.1%
「子供が通っている保育園・幼稚園等で、登園を断られた」
2.4%
特筆すべきは
「自身が勤務先の同僚から、心無い言葉を言われた」
という方が、現実にいるという結果です。
つまり医療従事者同士でさえも、差別・偏見が起きてしまうんです。
新型コロナウイルス感染症の対応の大変さがわかっているはずの同業者ですら、恐怖や不安にあながうことが困難な場合があるという事実…。
一般の方であれば、なおさらでしょう。
さらには病院等でのクラスター発生が、何度も報道されていました。
これでは医療従事者に対して、恐怖や不安を感じてしまうのは、心理的な作用として、やむを得ないことだと考えられます。
ですので、このような状況の時には差別や偏見は、「必ず起こるもの」と捉えることができます。
ただ、だからといって差別的な言動をしていいわけではありません。
そこで、このような恐怖や不安に対する、対処法をご紹介しますね。
4 抑止ではなく「許して諭す」
人間は誰しも、完璧ではありません。
命に係わる恐怖や不安を感じた際に、理性を維持して行動をすることは、簡単なことではありません。
実はわたし自身、非常事態に際して苦い経験があります。
現地で本当に偶然、レンジャー訓練のバディにバッタリ再会しました。
レンジャー訓練ではバディシステム(2人1組制)を採用しており、3カ月間、どんな時も必ずバディと行動し、一蓮托生で苦楽を共にします。
そんな苦楽を共にしたバディは、原発の目の前で任務を遂行していました。
その事実を聞いた際、わたしは言葉ではねぎらい、お互い頑張ろうと励まし合いました。
ただ、わたしより放射能の多い場所で作業をしていたバディに対して、反射的に心理的な抵抗感を感じたのを今でも覚えています。
放射能はうつらない、除染すれば大丈夫と、もちろん理屈ではわかっています。
わかっていても、心理的な抵抗感が全く起こらないかと言われれば、それは別問題なんです。
「お互い頑張ろう」
そう言いつつも、心理的な抵抗感が言葉や態度に出ないよう、自分を必死に制御したのを今でも覚えています。
思い出したくない、本当に苦い思い出です。
いざ、そういう場面に出くわした際にどう感じるかは、その時にならないと本当にわからないものなんです。
今回のコロナ禍で、
「差別・偏見をやめよう」
と盛んにメディアで報道されていました。
そんな時にふと感じたんです。
差別や偏見を態度や言葉に出してしまった方は、もしかすると
”差別・偏見をやめよう”
⇩
”恐怖や不安を感じるな!”
こんな風にメッセージを受け取ってしまっているのではないか、と。
人間誰しも、頭ごなしに抑止されるのは、嫌なものです。
歳を重ねれば重ねるほど、その傾向は強くなります。
さらに、
「誰もが感じているはずの、恐怖や不安を感じるな!」
と言われてしまっては、とても理不尽に感じるはずです。
ですので、差別や偏見をなくすためには、まずはその恐怖や不安を感じることを許すことが必要であると、わたしは考えます。
そしてその気持ちに寄り添うメッセージを発信することが、差別や偏見をなくすための手段だと考えます。
コロナ禍で
強い恐怖や不安を
感じてしまった方へ
「コロナに対してたくさんの報道がありますので、恐怖や不安を感じるのは当然です」
「これはみんな同じです」
「人間であれば、危険を回避するために誰もが当然に持つ感情です」
「そしてコロナウィルスに近い場所にいる医療従事者に対して、抵抗感を強く感じることもあると思います」
「人間は完璧ではありませんから、そんな感情を持つことはやむを得ないことです」
「ただ、それをあからさまに態度や言葉に出してしまった場合、相手は傷つきます」
「感染が広がらないように、そして命を救うために、懸命に頑張っている医療従事者の皆様を傷つけても、コロナはいなくなりません」
「むしろ医療の質を下げ、感染リスクが上がるどころか、救える命も救えなくなってしまいます」
「もしかしたら、あなた自身がお世話になる場合もあるはずです」
「怖いこともあると思います」
「不安になることもあると思います」
「その気持ちを抱えているのは、あなただけではありません」
「ただ、態度や言葉に出すときは、
『ありがとうございます』
と感謝の言葉を伝えて、頭を下げましょう」
「恐怖と不安が和らいで、この状況を生き抜く勇気が湧いてきますよ」
「どんなに困難なことがあっても、必ず乗り越えられます」
「否定的な感情に振り回されずに、みんなでコロナ禍を乗り越えていきましょう」
5 まとめと次回のテーマ
今回のブログでは『医療従事者差別』をテーマにしました。
人間の集団心理を説明するために「傍観者効果」を取り上げ、社会心理学的な観点から、医療従事者差別を考察していきました。
社会を通して増幅された恐怖や不安にあながうことは、非常に難しいことだということは、ご理解いただけましたでしょうか。
このような中で差別や偏見をなくすには、まずは恐怖や不安という感情を持つことを許す必要がある、とわたしは考えます。
そして、差別はダメと頭ごなしに抑止するのではなく、気持ちに寄り添ったメッセージを送り、恐怖や不安を緩めていくことが有効だと感じます。
こんな風に「許して諭す」ことで、感情に振り回されずに行動できるのではないかと考えています。
今後もこのような非常事態が、起こることがあるかもしれません。
このブログに共感してくださった方は、是非大切な方と共有してください。
そして非常事態の時には「許して諭す」で、恐怖や不安に振り回されずに、困難を乗り越えていきましょう。
今回のブログで、
「非常事態の時には、社会的に恐怖や不安が増幅される」
とをお伝えしたんですが…。
実はこの現象は、非常事態時のストレスである”惨事ストレス”が影響しているんです。
次回のブログでは、この惨事ストレスについてお伝えしようと思います。
タイトルは
『CBRNE(シーバーン)災害と惨事ストレス』
是非ご覧ください。
追伸:東日本大震災から数年後、またバディに会いました。その時には心理的な抵抗感は全くなくなっていました。時間が経つとそんな気持ちもなくなります。時間の力に感謝です。
【参考文献】
1 集団心理・集団行動-社会の中の人間行動学- 三井宏隆著 小林出版 1997年4月
2 令和3年版 看護白書 公益社団法人日本看護協会編 日本看護協会出版会 2021年7月
【参考資料】
4 日本赤十字社HP 「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」
【今週の体重】
先週57.8㎏⇒今週58.7㎏
【体重をアップする理由】
【頑張らないダイエット③】 お手軽にも程がある!"超時短"筋トレ法
※令和6年3月16日:ブログの冒頭に「概要」を追加し、文章の校正をしました。
陸上自衛隊に15年勤務。レンジャー隊員。公認心理師。産業カウンセラー。
在職時は、年200件以上の面談に対応するカウンセラーの任務を行うと共に、隊員に対して「災害派遣の心構え」を教育をしていました。
そんな自衛隊での教育や、自身の災害派遣の経験をアレンジして、現在は一般向けに「災害の心構え」をお伝えするセミナー講師。
『どんな災害も乗り越える』
その心構えを”自衛隊式”でレクチャーしています。
このブログでは、防災のこと、身心の健康、そしてちょっとだけ自衛隊の話を綴っています。
自衛隊での経験やセラピストとして学んだことが、皆様のお役に立てば幸いです。
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公認心理師(国家資格)、産業カウンセラー、リラクゼーションセラピスト(2級)、元陸上自衛官、レンジャー隊員、上級体育指導官、予備自衛官(衛生官)
〔※「Windship」及び「Windship treatment」は登録商標です。〕
【前回のブログ】